(一社)LGBT理解増進会・LGBT理解増進ネット(最新情報)

同性愛や性別違和など性的マイノリティの人々が、日本社会で自分らしく生きていけるための、すべての基礎となる理解増進法の制定を目指します。

【談話】LGBT理解増進法不成立を受けて

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今年1月に召集された第204通常国会は、6月16日、150日間の会期を終えました。会期中に自民党性的指向性自認に関する特命委員会として5年余にわたり幾多の調整を経てきたものが基本となって超党派議連において2点の修正が加えられた合意案ができ、各党の党内での承認を得て、今国会での成立を目指しました。同法案を審議する衆参両院の内閣委員会において、安全保障上、重要な施設周辺などの土地利用を規制する法律が、16日午前2時半ごろ、参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決・成立しましたが、最後の最後まで立憲民主党共産党の反対があり深夜の採決になるほどの厳しい審議が続いた結果、LGBT理解増進法は時間切れで審議できませんでした。国会でLGBT理解増進法の成立を目指すと言い続けてきた立憲民主党共産党の真意は図りにくいところがあります。

今国会を終えて、当会として次の通り談話を発表します。

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内閣府を主管庁にしたのはどのような経緯があり、なぜ難しかったのか。

人権に関わる法律は、法務省文科省を主管庁とする先行法がありますので、それを踏襲しても良いのですが、法務省文科省ではなく、安倍政権下で閣議決定を経て内閣府を主管庁にし、LGBTの課題の完全解消を目指すために、一億総活躍社会、経済対策における骨太の方針に加えたことに対して再確認する必要があるように思います。過去の人権活動の歴史に学び、差別・偏見の解消を目的とした、行き過ぎた反差別の活動から脱却し、LGBTが社会で十分に活躍できる土壌を作ることによる課題の完全解消を優先したのです。

課題の完全解消に向けて、当会が設立当初から示した、「差別禁止から理解増進」という方向性の新たなパラダイムチェンジを起こし、「先ずは理解増進から」との立法の精神を具現化するために動き出しました。

しかし、内閣委員会の審議が立て込んでおり、多くの皆さんのご尽力もありましたが、結果として自民党三役預かりとなったまま閉会を迎えるに至りました。

 

② 法律論から外れて解釈されたLGBT理解増進法

超党派議連での合意案には、2点の追加がありました。

1点目は、「差別は許されないとの認識の下」という文言の追加です。

これは同義の憲法14条からの引用と考えられ、この文言は、「立法動機であって理解増進法の主旨には法的効果がない」という衆議院法制局の法解釈がありましたが、党内の法案審査会や総務会では異論が続出し、それを国会の審議で確認することを条件に同法案が承認され、衆参の国会対策員委員長との調整の結果、国会での審議における上述の確認をする時間が取れなかったというのが事実です。

なお、野党側も同法律の施行後に地方自治体が独自のパートナーシップ制度などの政策を制限しない旨の国会での審議・確認を求めていました。

つまり与野党とも審議を求めていたのも関わらず、自民党だけが審議を求めていたがために時間切れというような報道がなされていたのは大変遺憾であり公平だとは言えません。

 

2点目は、「性自認」を巡る風評です。

自民党は、「ジェンダーアイデンティティ」の法律上の日本語訳を従来からの学術用語である「性同一性」とし、「斉一性の有無および程度」と規定し、「野党案の性自認」とその簡便な訳との違いを持たせていました。「ジェンダーアイデンティティ」を「性同一性」と訳そうが、「性自認」と訳そうが違いがあってはいけないのですが、野党案の性別決定の簡便さがメディアやSNSによって強調された結果、理解増進法が性別の自己決定を認める「セルフID」かのような誤認識が広がりました。野党案に「セルフID」の入り込む余地があったからこそジェンダーアイデンティティに二つの解釈が存在しているように映ったことは遺憾なことです。

わが国における法律上の性別に関する原則は、生物学上の性別によるものであり、不変です。これは、性同一性障害者特例法からも解釈できます。同法は、性別変更に関する特例を示したものです。野党案にあるような簡便な定義が解釈の余地を生み、「今だけ女性」という主張があれば、それを悪用し得るという懸念が払しょくできず、混乱が生じました。

「今だけ女性」という立場の悪用については、本会代表理事だけではなく、世界でも、わが国に置いてはネット上でも数年前から議論がなされていました。

当会代表理事は、自民党内部における非公開の勉強会で講師を務めた際に、事前に慎重に説明をしたにも関わらず自民党関係者以外の主観により曲げて伝えられ、一部報道で本名を上げて非難がなされました。あくまでも、立法措置を講ずる上でのリスクマネジメントの一環であるにも関わらず、「差別」と決めつけられ、記事が報道され流布されたことに改めて報道の在り方や記者の倫理が問われるべきだと考えます。

大事なことは、戸籍性を変更された皆さんは法律上の女性ですから当然のことながら議論の対象ではありません。性別移行手術の途中であったり、手術をしていない皆さまは、そもそもお風呂、トイレといった女性専用スペースはトラブルを避けるために使いませんから議論の範囲ではありません。更に異性装をされている皆さまも、女性の安全・安心を脅かすことのない範囲においては議論の対象ではありません。問題とするところは、公共の福祉に反し、女性の安全・安心を脅かすような犯罪行為をする自称女性の方々に限るのは当然のことです。それをあえて混同して差別と断じた悪意のある報道は全く本意を外したものと言えます。

その後も、同様の発言をされた自民党山谷えり子衆議院議員も同様に報道され、炎上しましたが、その結果、多くの国民が知るところとなり、安易な差別とのレッテル貼りが困難になりつつある昨今は非常に好ましい状況にあると言えます。

昨今は、ヨーロッパでも行き過ぎたトランスジェンダイズムから導かれた「セルフID制度」が議論され国会での否決が続いていますし、世界でも、わが国でも、オリンピアンによる同様の問題点が指摘されていますが、私を差別と一方的に指摘した記者は、その後は同様の発言については沈黙しているようです。

記者ご自身や同新聞社は、社会の混乱を引きおこし、女性や子どもたちの日常生活における安全・安心を脅かす可能性のある「セルフID」を是認すると明言すべきです。その上で国民、読者の皆さんに対してよりはっきりと世界各地で起こっているセルフIDに問題が無いと書き続けて頂ければと思います。

このように、法律論から外れて解釈されたLGBT理解増進法の議論が、思わぬ横道にそれてしまったことは大変残念でした。これは説明不足もありますが、メディアが一方的な報道を続けたことが混乱の大きな原因であり、まさに、メディアリテラシーが問われるところでしょう。

今回の「性自認」という文言の理解増進法への採用は、公明党、野党の要望に応えたものです。その際に、「性自認」という文言は採用していますが、従来の「性同一性」の定義を採用し、まちまちとなっている性自認を法律で確定させたものです。単なる男性と思えば男性、女性と思えば女性という自己認識で性別を変更したり、女性専用スペースを利用するという懸念に対して考慮したものです。

 

③ 今後に向けて克服すべき課題

今国会で成立できなかったLGBT理解増進法ですが、自民党三役預かりから次に向けて進むことになります。

当会は、会期中、多くのご批判やご意見を頂きました。その多くは、当会代表理事が5年前に自民党に政策提言した法律が混乱を伴って一方的に議論される中で、説明責任を果たすべきと言うものでした。会期中に説明責任を果たさなかった理由は、与野党議員間の議論の妨げにしてはいけないとの判断でした。至らなかったことに対して深くお詫び申し上げます。

今後は、衆議院選挙後の内閣、党内の人事もありますが、引き続きLGBT理解増進法の成立に向け更なる努力を続けて参りたいと考えています。

 

なお、当会には、「元の自民党案に戻すべき」「一部の当事者の反差別運動が明確化し、差別の定義が恣意的に拡大され、多くのマスコミが彼らの主張のみを伝えていく状況では、慎重になるのはやむを得ない」「一部の当事者の胸先三寸でどんな事象でも差別と認定できるようなものは許されない」と言ったご意見が多数届いていることも付記しておきたいと思います。

 

令和3年(2021年)6月22日

 

一般社団法人 LGBT理解増進会

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